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岡山地方裁判所 平成5年(ワ)783号 判決

原告(反訴被告)

古庄基子

被告(反訴原告)

森川昌紀

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金七〇万九九六四円及びこれに対する平成三年六月二六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対するその余の請求は棄却する。

三  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、金一五万四九七四円及びこれに対する平成三年六月二六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対するその余の反訴請求は棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを五分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決は、第一、三、五項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告、以下「被告」という)は原告(反訴被告、以下「原告」という)に対し、金二三三万三九二四円及びこれに対する平成三年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  反訴請求の趣旨

1 原告は被告に対し、金八二万四八七三円及びこれに対する平成三年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴請求に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 交通事故の発生(以下「本件事故」という)

(一) 日時 平成三年六月二六日午後六時二〇分

(二) 場所 岡山市津高三二〇の四先交差点(以下「本件交差点」という)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(岡山五九ほ四六)

運転者 被告(以下「被告車]という)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(岡山五九む九四五四)

運転者 原告(以下「原告車」という)

(五) 事故態様 原告は、左右の安全を確認するため一時停止した後、本件交差点を直進すべく進行したところ、急に前方にバイクが横断して来たので、これの通過を待つべく本件交差点中央に停止した。被告は本件交差点に停止している原告車を二〇〇メートル以上手前で発見したにもかかわらず、原告車が右折するものと見込み、原告車の後部から直進しようとして制限速度をかなり超える時速八〇キロメートルの速度で漫然と運転走行して、被告車を原告車の側面に衝突させた。

2 責任原因

本件事故の発生につき、被告には前方不注視、前方車両の動静に対する判断の過誤及び制限速度超過の過失があり、また被告は被告車の保有者であるから、本件事故による損害について民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条により損害賠償責任がある。

3 損害

(一) 治療費 五八二〇円

原告は、本件事故により、頸部捻挫等の安静加療一〇日間の傷害を負い、三好医院において、平成三年六月二六日から七月一八日までの二一日間通院して(実通院二日)治療を受け、治療費として五八二〇円を支出した。

(二) 雑費 一〇〇〇円(一日五〇〇円の二日分)

(三) 休業損害 一四万五二〇〇円

原告は、本件事故当時有限会社ヒカリ化研の現場責任者として稼働し、年収五三〇万円(一日当たり一万四五二〇円)の収入を得ていたものであるが、本件事故による傷害により通院期間二一日(実通院二日)の治療を受けたのであるから、少なくとも一〇日分の一四万五二〇〇円の休業損害がある。

(四) 慰謝料 二〇万円

原告は通院期間二一日、実通院二日の治療を受けているので、その慰謝料は二〇万円が相当である。

(五) 車両損害 合計一七八万一九〇四円

〈1〉 修理代金 九〇万九七二六円

〈2〉 代車料 六〇万円

一日一万円として修理相当期間ないし車両買い替えに必要な期間(六〇日)分。

〈3〉 評価損 二七万二一七八円

車両の重要な部分に損害が生じており、〈1〉の修理代金の約三割の評価損が生じている。

(六) 弁護士費用 二〇万円

4 よつて、原告は被告に対し、本件事故による損害賠償金二三三万三九二四円及びこれに対する本件不法行為の日である平成三年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、本件事故態様について否認し、その余は認める。

本件事故は、本件交差点において、原告が左右の安全を確認することなく被告進行方向の道路車線上に進行し、停止すべきでない同車線上に急に停止したため、被告が急制動の措置を取つたが間に合わず、被告車が原告車に衝突して発生した。

2 同2は否認する。

3 同3は争う。

休業損害は原告の受傷の程度が軽く仕事を休業する必要はないこと、原告は本件事故後も前記会社から報酬を得ていることから発生していない。

車両損害のうちの修理代金は原告の主張は過剰見積であり、六九万八〇四〇円が相当である。代車料は、原告が知人や会社から無償で車を借りていることから発生していない。評価損は、原告車を修理しても技術上の欠陥が発生することも認められず、原告が原告車を買い替える予定であることが認められない本件においては、発生していない。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、原告が左右の安全を確認することなく本件交差点に進入し、被告進行方向の道路車線上の停止すべきでない位置に原告車を急に停止した過失によつて発生したものであるから、仮に、被告に原告主張の過失があるにしても、原告にも右のような過失があつたのであり、本件事故の原因の大半(九割以上)は原告にあるので、損害の算定に際しては、これを斟酌して相当額の減額がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

本件事故の原因は全面的に被告にあり、仮に、原告に過失があつたとしてもその割合は一割に満たない。

(反訴について)

一  請求原因

1 交通事故の発生

(一) 日時、場所、原告車、被告車については、本訴請求原因1を引用する(但し、加害車両は原告車、被害車両は被告車である)。

(二) 事故態様 本訴請求原因に対する認否1記載の本件事故態様の主張を引用する。

2 責任原因

原告には、左右の安全を確認することなく本件交差点に進入し、被告進行方向の道路車線上の停止すべきでない位置に原告車を急に停止させた過失があり、民法七〇九条により損害賠償責任がある。

3 損害 八二万四八七三円

(一) 車両修理代金 七二万四八七三円

(二) 弁護士費用 一〇万円

4 よつて、被告は原告に対し、本件事故による損害賠償金八二万四八七三円及びこれに対する本件不法行為の日である平成三年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、原告車を加害車両、被告車を被害車両としている点及び本件事故態様は否認し、その余は認める。

本件事故態様については本訴請求原因1(五)を引用する。

2 同2のうち、本件事故についての原告の責任は認める。

3 同3は否認。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、本訴請求原因2で記載のとおり、被告の前方不注視、前方車両の動静に対する判断の過誤及び制限速度超過の過失によつて発生したものである。したがつて、原告に被告主張の過失があるにしても、本件事故の原因の九割以上は被告にあるので、損害の算定に際しては、これを斟酌して相当額の減額がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

本訴抗弁の主張を引用する。

第三証拠

証拠関係は、本件証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴について

一  本件交通事故の発生

請求原因1の事実中、平成三年六月二六日午後六時二〇分ころ、岡山市津高三二〇の四先の交通整理の行なわれていない本件交差点において、原告運転の原告車の左側面に、被告運転の被告車が衝突したことは当事者間に争いはない。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第二、第三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第四号証並びに原告及び被告各本人尋問の結果によれば、本件事故の発生状況について、以下のとおり認められ、これを覆すに足る証拠はない。

1  本件事故現場である本件交差点は、岡山北バイパス(国道五三号線バイパス)と東西に走る市道とが交差する交通整理の行なわれていない十字路交差点である。被告車はバイパス道路を南進し、原告車は市道を東進走行していた。双方の道路ともに片側一車線であるが、本件交差点付近は双方の道路とも右折車線が増設されていた。本件交差点付近のバイパス道路の全幅員は八・八メートル(直進車線が各三メートル、右折車線が二・八メートル)あり、バイパス道路は直線道路であり見通しは良く、時速五〇キロメートルの速度規制がある。市道から本件交差点に進入するに際しては一時停止しなければならない。本件事故当日は晴天で、本件事故現場付近の見通しは双方の道路とも良好であつた。

2  原告は原告車を運転して市道を東進し、本件交差点を直進するため本件交差点の手前で一時停止した後、ゆつくりしたスピードで本件交差点に進入したところ、前方のバイパス道路東側側道をバイクがゆつくり南から北へ横断し始めたため、原告は本件交差点内の被告走行車線上に原告車の前部がかかる地点で原告車を停止させ、バイクの通過を待つていた。一方、被告は被告車を運転してバイパス道路を時速約七〇ないし八〇キロメートルの速度で南進し、本件交差点から約三〇〇メートル手前にあるバイパス道路と交差する高架橋を少しすぎたところで、原告車が本件交差点に進入するのを発見したが、以前から市道を本件交差点で右折する車が多かつたことから、原告車も本件交差点を右折し南進するものと思い込み、原告車の右折後に本件交差点を通過するか、原告車がゆつくり右折した場合には原告車の右側を追い越せると判断し、その時点では衝突の危険を感じなかつたことから減速することなく走行した。ところが、被告は本件交差点に進入した原告車が被告の走行車線に進入して停止しかけていたことを認めて衝突の危険を感じ、本件交差点手前約五〇メートルの地点で急ブレーキをかけるとともに、原告車の右側を追い越し走行しようとしてハンドルを右側に切つたが間に合わず、被告車の前部を原告車の左側側部に衝突させるに至つた。

以上の事実が認められる。

原告は、その本人尋問の中で、本件交差点に進入するに際し左右の安全を確認したが、バイパス道路の左側には被告車はおらず、本件交差点内に原告車を停止した際、被告車が約三〇〇メートル先に小さく見えた旨の供述をしているが、原告が本件交差点内に停止するに至つた時間的経過や被告車の速度を考慮すると、原告の右供述は不自然と言わざるを得ず採用できない。

二  被告の責任

前記認定事実によれば、被告はバイパス道路を走行し、本件交差点の手前約三〇〇メートルを少し過ぎたところで本件交差点に進入する原告車を発見したが、原告車が右折するものと思い込み、本件交差点までの距離から衝突の危険を感じないまま減速もせず、制限速度を時速二〇ないし三〇キロメートルもオーバーした速度で走行したため、本件交差点内で停止した原告車を認め、急制動の措置を取つたが間に合わず被告車を原告車に衝突させたものである。

被告は、本件交差点に進入しようとしていた原告車を衝突の危険を感じない距離を置いて発見したのであるから、原告車の動静に十分注意し、適宜、被告車を減速する措置を取つていれば、本件事故の発生は回避できたものである。したがつて、本件事故の発生について、被告には前方車両の動静に十分注意すべき義務に違反し、かつ制限速度超過違反の過失があるものと言わざるを得ない。

そして、被告は被告車を自己の運行の用に供する者であることは弁論の全趣旨によつて認められるところであるから、本件事故による原告の損害について、被告は民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条により損害賠償責任を負担するものと言わざるを得ない。

三  損害 八一万二四五六円

1  治療費 五八二〇円

成立に争いのない甲第七ないし第九号証によれば、原告は本件事故により、頸部捻挫等の傷害を負い、三好医院において、平成三年六月二六日から七月一八日までの間に二日通院して治療を受け、治療費として五八二〇円を支出したことが認められる。

2  雑費

原告は雑費として一〇〇〇円(一日当たり五〇〇円の二日分)を請求するがこれを認めるに足りる証拠はない。

3  休業損害

成立に争いのない甲第一一号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時有限会社ヒカリ化研の現場責任者として稼働しており、年収五三〇万円(一日当たり一万四五二〇円)の収入を得ていたものであること、前記認定のとおり原告は本件受傷で通院期間二一日、実通院二日の治療を受けたことは認められるが、他方で成立に争いのない甲第一〇号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故後も前記会社から全額の給与を得ていたことが認められるから、原告主張の休業損害を認めることはできない。

4  慰謝料 五万円

原告は本件事故で前記の傷害を負い、通院期間二一日、実通院二日の治療を受けることを余儀なくされ、精神的苦痛を受けたものであるが、その傷害の程度等に鑑みれば、右精神的苦痛に対する慰謝料としては五万円が相当である。

5  車両損害 七五万六六三六円

〈1〉 修理代金 七五万六六三六円

原告は本件事故後原告車を廃車にし新車を購入したが、修理は可能だつたとして、修理代金として甲第五号証の見積書に基づき九〇万九七二六円を請求するのに対し、被告は甲第六号証の自動車車両損害調査報告書に基づき原告車の修理代金は六九万八〇四〇円が相当であると争うので、以下この点につき検討する。

成立に争いのない甲第六号証、証人久保田修の証言により成立の認められる甲第五号証、同証人及び証人番木弘の各証言によれば、甲第五号証の見積書中、フロントガラス、フロントアツパーモール、フロントダムラバー、フロントプロテクターについては重複して見積がなされていることが認められるから、右部品代及び工賃の合計一一万五七二〇円が右見積書の金額から除かれるべきである(証人番木弘の証言によれば、フロントガラスの付属品であるフロントダムラバー、フロントプロテクターは、通常、工賃に含まれるか、本件では再使用が可能であり、また、甲第五、第六号証の記載からはフロントガラス、フロントアツパーモールに含めて見積するのが相当と認められるから、フロントガラス、フロントアツパーモールの見積は、甲第五、第六号証にしたがつて部品代、工賃を含め一〇万一九一〇円の範囲で認めるのが相当である。)。

次に、ボンネツト、フロントピラーアウターインナー及び右フロントフエンダーについては、甲五号証によれば新しい部品との取り替え修理の見積がなされ、甲第六号証によれば板金修理の見積がなされている。交通事故により車両が損傷した場合、加害者がどの程度まで修理すべきか問題となるが、厳密に事故前と全く同一の状態に復元修理することが多くの場合技術的に不可能なことに鑑みれば、社会常識的にみて、車両の異常が除去され事故前の状態に復したと認められる程度の義務を果たせば足りるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、証人久保田修の証言によれば、同証人の見積(甲第五号証)の中で前記各部品を取り替えるべきであるとする根拠は、結局仕上がりの良さを重視した結果であるが、一方で同証人もこれらの部品を板金修理することも可能であると供述していること、また、新しい部品との取り替えの方が板金修理よりも経済的であるとか板金修理によれば機能上の異常が残ることが認められないことに照らせば、前記各部品については着脱のうえ板金修理をもつて足りるというのが相当である。したがつて、前記各部品の修理については甲第六号証の範囲内でその修理費用三万二五四〇円を認めるのが相当である。

原告車内のカセツトデツキについて、原告は取り替え修理を求めているのに対し、被告は修理の必要を争つているが、証人久保田修の証言によれば、カセツトデツキは本件事故後音声が出なかつたことが認められるから、甲第五号証にしたがつて、カセツトデツキについては取り替え修理の必要が認められ、その修理費用二万二〇〇〇円が加えられるべきである。

その余の修理費用については甲第五号証によつて認めることができる。

そうすると、原告主張の金額九〇万九七二六円(甲第五号証)から、前記重複見積の一一万五七二〇円(甲第五号証)、並びに前記ボンネツト、フロントピラーアウターインナー及び右フロントフエンダーについての取り替え修理代金(六万九九一〇円、甲第五号証)と板金修理代金(三万二五四〇円、甲第六号証)の差額三万七三七〇円を差し引いた七五万六六三六円を原告車の修理代金として認めるのが相当である。

〈2〉 代車料

原告は一日一万円の計算で、修理相当期間ないし車両買い替えに必要な期間(六〇日間)の代車料を請求するが、原告本人尋問の結果によれば、原告は新車を購入するまでの間、知人や会社の車両を利用し、特にレンタカーを借りるなどの経済的支出をしていないことが認められるから、代車料としての損害を認めることはできない。

〈3〉 評価損

交通事故に基づく車両の評価損が生ずるのは、当該車両を近い将来に転売する予定があるなど事故による評価の原価が具体的な損害となる特別の事情が存する場合のほか、車両が事故によつて破損し、修理しても技術上の限界等から回復できない欠陥が残存した場合(機能的障害が残存した場合、耐用年数が低下した場合など)に限られるべきものと考えるのが相当であると考えられるところ、原告からはそれらの事情が主張立証されていないから、原告の評価損の請求を認めることはできない。

三  過失相殺について

本件事故は、被告が原告車の動静に十分注意せず、制限速度を超過して走行した過失により発生したことは前記のとおりであるが、原告が本件交差点内に原告車を停止させたことも本件事故の一因と言わざるを得ない。すなわち、原告が走行していた市道には一時停止の標識があり、本件交差点内の走行はバイパス道路を走行する車両が優先し、市道から本件交差点を走行する車両はバイパス道路を走行する車両の進行を妨害してはならなかつたのであるから、原告車による本件交差点内への進入、停止は本件事故の一因であり、特別の事情のない限り、原告はその責任を負担せざるを得ない。原告は、その本人尋問の中で、本件交差点に進入するに際し左右の安全を確認したが被告車はいなかつた、本件交差点内に進入してすぐバイクが前方を横切つたため本件交差点内に原告車を停止した、停止した際被告車が約三〇〇メートル先に小さく見えた、被告車が急ブレーキをかけるまで二、三回被告車を見直す余裕があつた旨供述しているが、原告が本件交差点に進入するときには、被告車は本件交差点から約三〇〇メートルの地点を走行していたこと、バイクの通過を待つための停止位置はバイパス道路の被告車の走行車線上であつたことに照らすと、仮にバイクの通過が原告にとつて不可抗力であつたとしても、原告の本件交差点への進入・停止の措置に過失がなかつたということはできない。

しかしながら、本件事故は、原告が被告車の通過直前に進入したものではなく、原告による本件交差点への進入・停止の措置についての過失は否定できないにしても、被告が原告車の動静に注意し、減速の措置を取つていれば本件事故の発生は回避できたのであるから、本件事故の発生については原告の過失に比較して被告の過失は大きいものと言わざるを得ず、その過失割合は原告が二割、被告が八割と言うのが相当である。したがつて、前項の原告の損害額から二割を減じた六四万九九六四円が被告の負担すべき損害額となる。

四  弁護士費用 六万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告の本件損害としての弁護士費用は六万円と認めるのが相当である。

五  以上から本件で、被告の負担すべき損害額は七〇万九九六四円である。

第二反訴について

一  本件事故の発生及び原告の過失責任は、本訴の一(本件事故の発生)、三(過失相殺について)で述べたとおりであり、原告には本件事故の発生につき本件交差点に進入した点に過失が認められ、原告は本件事故により発生した被告の損害について民法七〇九条により賠償する責任が認められる。

二  損害 七二万四八七三円

成立に争いのない乙第一号証によれば、本件事故により被告車の前部などが破損しており、その修理に要する費用は七二万四八七三円と認められる。

三  過失相殺について

本訴四(過失相殺について)で述べたとおり、本件事故の過失割合については、原告を二割、被告を八割とするのが相当であるから、被告の前記損害額から八割を減額じた一四万四九七四円が原告の負担すべき損害額となる。

四  弁護士費用 一万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、被告の本件損害としての弁護士費用は一万円と認めるのが相当である。

五  以上から本件で、原告の負担すべき損害額は一五万四九七四円である。

第三結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はそれぞれ主文第一項及び第三項の金額の限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加々美博久)

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